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QIコース・第3セッション振り返り(1日目後半)

QIコース・第3セッション振り返り(1日目後半)

午後は、医療の質の3本柱の一つ、サービスの質(患者満足度)について。ちなみに残りの2つは患者アウトカム(死亡率や入院日数など)とコスト。

一般的にカスタマーとは、Expectationをもつ全ての人をさすので、医療におけるカスタマーは、実質、医療機関に関わる全ての人と患者家族を指すことになる。医療者はいろいろなカスタマーのために働くことになる。どのカスタマーの、何を優先すべきなのかも常に一定の答えはなく、難しい問題がそこにはある。

ここで、ヘルスグレード、医療機関や個人個人の医者の評価やランキングについて触れてくれた。アメリカではここの医者の評価まで簡単に調べられる。保険会社のサイトで保険がカバーされる医者を検索すると、必ず評価も一緒に表示される。どうやらこれは義務付けられているらしい。おそるべしアメリカ医療。

人々は、これらの評価・ランキングを「参考にして行くところを決める」とアンケートでは答えるが、実際はランキングによって今まで行っていた病院を変えることは滅多にないらしい(同じ病院内で医者は変えているかも知れないし、引っ越して初めて病院にかかるときは変わったかどうかわからない、と心の中でツッコミ)。

なぜなら、ランキングよりも関係性の方が大事だから、だそうだ。発表されている評価は結構的外れなものも多く、そもそも医療の質をわずかな項目だけで評価しているので、実情を反映していないことも多々ある。示された例として、整形外科に特化した病院なのに、神経系・脳卒中の評価が最高評価の5を受けていたり、呼吸不全の成績が5になっていたりと、全く参考にしようがない情報も溢れている。

問題は、医療者なら「アホらし」と思えるが、非医療者はこのデータをどう解釈したらいいかわからないのである。自分も、車のメーターをみてもオイルが少なくなっているかどうかすら判断できないし、自分のやっている分野以外のデータを騙されずに解釈するのは至難の技である。

しかし評価・ランキングよりも患者が特定の病院を「避ける」情報がある。それは一人の患者のストーリーだ。例えば病院の医療事故などで一人の患者が悲劇的な死をとげ、それがメディアに取り上げられると、人々はその病院を避けるようになる。病院も信頼を改善するのに年単位の時間が必要になる。

そして最も大事なのは関係性。例としては、医療者と良い関係が築けていて、リスクなども十分に説明理解した上で自分で納得して選んだことであれば(Shared decision making)、決して最高の結果が出なくても患者は納得できる可能性が高くなる。

評価から派生して、医師個人そしてグループとしてのパフォーマンスデータ(治療成績ったり、患者満足度だったり、アウトカムに設定されているものなら何でもあり)を病院内・部署内で公表するのはアメリカではもはや当たり前になっているが、QIの文化が育っていないところにこれをやると辱めにしかならないのでCycle of fearに陥る。数字をよくするためだけに仕事を増やすしかなくなるので余分なことをやり出してしまう(マイクロマネージメント)。ニューヨークの時の病院はまさにこの状況だった。

話はそれるがレジデントの時のQIもしくは偽QI(パフォーマンスデータを出してあとは丸投げパターン)の経験が悪すぎて、そしてどうしたらいいのかもわからず、自分で勉強しだしてQIのポテンシャルに惚れてQIと医学教育の両方のアドバンスド・トレーニングが受けれる今の大学を選んだので感謝すべきなのか?


ようやく話を戻して患者満足度の話へ、アメリカで標準的に使われるエイチキャップの成り立ちについて興味深い話。文献から引っ張ってきた医療の質や満足度を測定する項目をリストアップして、患者の視点から、どれが最も大事かを選んでもらって、患者満足度(患者にとって重要な医療の質)の項目を決めたらしい。面白いことにそこには医療者側が気にする「患者アウトカム(治療成績など)」は一つも、たったの一つも入っていない。

患者にとっては、病院が綺麗だったか、請求書がわかりやすく手間取らなかったか、そして食事が暖かくて美味しかったかどうか、などが医療の質を判断する上で重要なのである。自分も昨年末に子供が生まれた後に、保険請求が却下されたとして、まさか自分が働く病院から結構な額の請求書が突然届いて、(自分のせいで起こったことではない)問題を解決するために病院のファイナンスと保険会社に電話を2往復くらいした。さらには病院のファイナンスにかけるたびに違う人が出て、一から説明し直さなければならず、自分の働く病院でなければちくりと一言苦言を言っていただろう(解決をこっちに任せておきながら、2回目にかけたときに、事情を知らないマネージャーらしき人から「支払いの電話ですよね?」と自信満々に言われて流石に信用なくした)。

患者満足度に医療者、医療機関、医療機関を評価する機関が用いている医療の質の指標が全然入っていないのは、患者になってみるととてもよく理解できる。患者は統計上のデータで病院を選ぶのではなく、関係性で選ぶのだ。

ではExpectationを測定することはできるか?答えはYESだが、もし医療側が、自分たちのものさしで「患者のExpectation」を測定する項目をリストアップすると、(先に説明したように)患者のExpectationを反映しない間違った測定項目をあげてしまう(Self-gratification)。カスタマーのExpectationを無理に変えて、義務付けられないのも事実。例えば政府が国民のExpectationをねじ曲げようとすると、歴史的には革命が起こったり、現代では、政権が交代する羽目になることからも明らかである。
  

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