アメリカでは、研修医から始められる臨床研究といえば、レトロスペクティブ(後ろ向き)研究が上位に入ってくる、と思う
他にも、ケースレポート、医療の質改善プロジェクト、サーベイ研究など研修医でも始めやすい学術活動はあるが。そういえば日本でも最近は初期研修から研究する人が増えてきているようだ。10年もたてば変わるものだ。
(優秀なメンターやリサーチチームがいる場合を除き)後ろ向き研究をトライアンドエラーでやる場合、ちゃんとやるべきことの一つは
過去の文献レビュー(Literature Review)
自分が苦い経験をしたからこそ、そして、その経験の後で大学院で研究デザインや文献レビューについて学んだからこそ、その大切さと難しさがわかる。でも、それを研究を手伝っている相手にやってもらうよう教えたり納得させるのは、もっと難しい
今回の特発性細菌性腹膜炎の後ろ向き研究でもそうだし、他に手伝っているアセスメントツール開発もそうだが
「文献レビューはほんとに大事だから」とか
「自分達が使っているワードでは引っかからないけど、こういうワードではいっぱい関連研究があるから調べるべき」とか
「自分がちょっと(といっても数時間かかってる)調べただけでも、これだけの要因に関するリストが見つかったよ」とか
(どんどん具体的になっていく)
といろんなアプローチを試しても、右から左に流していく同僚たち。
そうだよね、内科研修医の頃の自分でも聞き流してたと思うから、責めはしないよ。
「文献レビューやったよ」「でも先行研究は見つからなかったよ」
と言われて、自分が調べて関連した研究が見つからなかったことは今のところない。
(実行するのが困難な研究を除く。一つだけアイデアは良かったけれど、縦列的なデータを前向きに集めない限り無理だよねって話になったのはある)。
何十年も世界中で研究がされてるんだから、あることを専門にやっていないかぎり、これまで誰も思いつかなかったアイデアを突然思いつく確率はどのくらいでしょう?
でも、それも仕方ない。自分もそうだった。「文献探して見つからないことに対して疑問は抱かない、じゃぁさっさとプロジェクトを始めよう」と思うのは。
でも、それでも、、、
被害がもろに自分にくるのは勘弁してほしい!
独立変数(Independent variable)はしっかり吟味したうえで選ぶ
これも文献レビューがなぜ重要なのかと同じこと。過去の文献・研究から、調べたいアウトカム(従属変数:Dependent variable この場合腹膜炎)にとって重要な因子がある程度わかる。
これをやらないと、意味もない、使いもしないデータを集めることになります。
はい、私の同僚
100個くらい(さすがに誇張だけれど) データ項目があるんですけど…
皆で分割するから、6症例だけだからすぐ終わるよー
っていわれて、いざREDCAPsを開いたら
絶望という名の奈落に落とされました
集中してやっても 1件1時間はかかりました。
絶対使わんやろ、っていうような項目まで
カリウムの入院時、ベースライン、最低値、最大値、って何の役に立つのだろう?
ナトリウム、AST、ALT、、、、、、、、、、、、 も同様の項目を記録?
これまでにやったトータルの腹水穿刺の数?死亡に関与するか知りたい?
うちの大学は周囲の病院と違う電カルで情報が共有されてないから
そもそもそんな数精確やないし
恐ろしくて統計式に試しに入れることすら拒否するレベルですMultiple Regressionにたくさんの独立変数は入れるべきでない、そしてStep-Wise Selectionも勧められない
さて統計の専門でもなんでもないので、ここらへんからぼろがでてくる(つまりただの愚痴)が
自分もやった失敗は、「関係ありそうな因子をいっぱい集めておいて、統計ソフトにどれがいいか決めさせる」手法。
まず、統計を何も知らなければ、すべての独立変数をLinearなりLogisticなり適切なRegression(日本語は回帰分析でいいのかな?)式にぶちこんで 、P値が0.05以下になって「やったー」とかなるのかもしれないが、そんな単純な話ではない(らしい)。
独立変数同士にInteractionがある場合、そんな関係しあっている因子、つまり似たような因子をいれていっては、結果がゆがめられていく、といえばいいだろうか(関係ない因子のP値が小さくなっていったり、関係のある因子のP値が大きくなったり:αとβエラーと同じ)
独立変数は少なければ少ない方が理想的
独立変数同士の交絡も統計ソフトが計算してくれるが、
その結果で独立変数を決めるのも勧められない
「より関係のある独立変数を検討する目的の」研究ならいいのかもしれないが
研究の方法自体にすごいバイアスをかけて自分に都合のよいデータを出してはいけません
ほかにもSPSSにもついてるStep-wise選択法。統計ソフトが後ろ向きもしくは前向きに計算上従属変数(アウトカム)と関係が深い独立変数(因子)を選択してくれる
これ自分もやってしまったが、めちゃくちゃ批判されました(何度も計算を重ねると、α・βエラーがとても起きやすいし、そもそも重要な因子がふくまれているか分からないのは下記参照)
ひと昔前許されていた統計が、今も許されるわけではありません。
統計の分野もどんどん進んでいます。
NY研修医時代のMPH持ちの後輩が、同じように、多くの因子同士とアウトカムの「Correlation」のマトリックス表を作って、P値が0.2以下の因子をMultiple regressionに入れる、というやり方をやって
「いいアイデアだねー」とか言っていたのが懐かしい
じゃぁ 計算上アウトカムに関係していない因子は外すのか、と言われるとそうではない。
年齢とか、性別とか、重要だと思われる因子は大体の研究で入っていることからもわかる。
つまり、上記のどんなやり方だろうと、「じゃぁそもそも集めたたデータ・因子がアウトカムを予測するうえで重要な因子を含んでいるか」という質問には答えられていない。
これまでの研究データやレビュー文献から、「どの因子が重要と示唆されるか」がわかっていない限り、まともに重要な関連因子を調整することなど不可能なのだ
論文でよくみる、いわゆる「Controlling for」「Adjusting for」ってところにあたる。
複雑な人体、病気、またその人の社会背景などが重なった結果として起こるアウトカムに対して、後ろ向き研究で全てのConfounderをControlすることはほぼ無理だと(個人的には)思うので
せめてベストな研究結果を世に出すために文献レビューをちゃんとやって、
ちゃんとやって、、、
ちゃんとやって?(マジなやつ)
ということをリサーチのバックグラウンドがない同僚に、失敗する前に教えるにはどうしたらよいのだろうか?
最後に、こういう議論を研究デザインの段階でやってからIRBに提案書を出すのがすじだと思う。って提案したのに、同僚はさっさとIRBに提出し許可をもらってしまって、今に至るわけだが。
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